Inclusive な社会に必要なもの

 

東京で言う銀座のような通り、トロントのBloor-Yorkville。

Chanel, Hermes, Gucci と、ハイブランドな店の並びや

おしゃれな雰囲気のカフェやバーで談笑する人たちの様子を楽しみつつ

見物人のような気持ちで通りを下っていくと、

やがて、モダンとクラシックが融合されたような外観の大きな建物が見えてくる。

カナダの国立自然文化博物館、Royal Ontario Museum (ROM) だ。

 

からっと肌寒く晴れた冬の初めのある休日、少しのショッピングもせずにこの国立博物館でお腹いっぱいになったので、

今回はこの Museum の特別展示を見て思ったことについて少し書いてみようかと思う。

 

 

 

ROMはとても広い博物館で、恐竜だの化石だのといった子どもが楽しめそうな展示から、世界の歴史や文化に関する文化的・学術的な展示まで様々な分野が常設展でカバーされている。

私がROMを訪れた2022年11月には、ちょうど期間限定の特別展示で Kent Monkman の “Being Legendary” [1] をやっていた。

 

 

Kent Monkman さんはファーストネーションの方々の歴史・文化をテーマとした絵画を描くコンテンポラリーアーティストで、New York の Museum of Modern Arts (MoMA) にも彼の作品が所蔵されている。”Being Legendary” では、ファーストネーションの方々の世界観や物語を描いた作品が、約40作品ほど展示されていた。

 

まず、カナダの美術館や資料館を訪れる度に気付かされることがある。

カナダの共用語である英語、フランス語と並んで、Cree syllabics という、カナダで最も多く話されているファーストネーションの言語/方言である Cree語/方言 の発音を表す文字で説明が書かれていることが多いのである。

 

Cree syllabics [2]
カナダでは12の語族から成る70のファーストネーションの言語が現存することが確認されているそうで [3]、

国内に26万人程度いるそれらの話者の内約 40%が Algonquian語という語族の Cree 方言を話しているそうだ [3]。

 

Cree 方言が話されている地域[4]

ファーストネーションの言語は元々文字がなく、Wiki には 現在のマニトバ州辺りに入植してきた言語学者 James Evans によってCree文字が発明されたと書かれていて、

これには諸説あるようだが、とにかく後に開発されたCree syllabics という表音文字が存在する。

 

前置きが長くなったが、私にとってこの展示の何が特に素晴らしいと思ったかと言うと、ファーストネーションの世界観を描くために語り手の視点を彼らの視点に徹底的に突き詰めて持っていっていたという点である。これまで多くの場所で、ファーストネーションの歴史はヨーロッパの言葉で、あるいは後からやってきた人たちの歴史との接点から語られてきた。でも少し考えれば、ファーストネーションの歴史は入植後の歴史よりもはるかに長いのだ。例えば人々はどのように世界を理解していたのか。人から人へ、どのような物語が語られていたのか。子どもたちはどんなことに夢中になったのか。展示では、彼らの物語が明るく語られていて、訪れた人々は作品の登場人物たちに共感を深めていくことができて、そして1885年に起こった事実が短くぷつっと、淡々と語られる。

カナダのファーストネーションの文化に限らず、入植や搾取の歴史を「後から来た者が犯した罪」として語ることは容易である。日本だってそのような問題をたくさん抱えてきた。しかし彼らについて知ること、共感を持つことにフォーカスを置いたことはあっただろうか。そして歴史的に搾取・迫害を受けた方々や、より一般化して言えば「マイノリティ」をより深く知ること・知る努力をすることが、個性が社会実装された、Inclusiveな社会を作っていく上でより重要なことではないか。

 

差別や偏見・あるいはハラスメントのようなことが起こるのは、多くの場合その人たちの性格が特段悪いからではない。単純に無知なのである。他者について我々は知っていることが少ない。マイノリティであることについてマジョリティとして生まれた人々は多くのことを知らない。マイノリティが語ることの難しさは、単に知らない人々に、ともすると攻撃をしてしまうからだ。自分もご多分に漏れずファーストネーションの文化について本当に何も知らないことを知った。思い返せば私が唯一覚えているのは子どもの頃に観たディズニーのポカホンタスくらいである。こんなにも豊かで貴重な文化が、声もなく消えていこうとしていることに衝撃を受けた。

 

 

そう言えば、常設展にはなんとアイヌ文化に関するコーナーまであった。日本のたとえば東京ですら、普通に暮らしていてアイヌ文化について触れる機会はあるだろうか。北海道の阿寒湖に旅行してようやく資料館に行く機会がある程度ではないだろうか。

 

カナダの国営企業で日々働いていると、この多様な文化から構成される国がいかに Inclusiveness – 文化、身体、認識、社会等あらゆる点で多様であることを受け入れ理解すること – を重視しているかをしみじみ感じることがある。私は外人であっても、英語がちょっと変てこでも、今まで差別はおろかハブられた程度の経験すらしていない。(子どもだと思われたことは結構あるが。涙)

個性が社会実装されあらゆる人が気持ちよく生きれる社会は、きっとこういう努力の先に見えるのだろうなあ。。と改めて感じた展示だった。

 

参考

Royal Ontario Museum

[1] Go inside Kent Monkman’s new ROM exhibition, a corrective to your childhood museum field trips, CBC

[2] https://en.wikipedia.org/wiki/Cree_syllabics

[3] , Statistics Canada

[4] https://en.wikipedia.org/wiki/Cree_language

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