新学期の始まり、同僚たちと

先日、Fiscal year の終わりということで、会社の部署のみんなでわいわいと集まり一年のまとめやソーシャライズをするイベントがあった。

普段より高い視点から偉い人たちの話を聞いたり、あつあつの Q&A セッションがあったり、他のチームの人や遠方に住んでいらっしゃる人たちと一通りキャッチアップをしたりしてから、誰もが期待していたように誰かがビアタウンに行こうと言い出した。

まだ明るいトロントの街は、ほんの少し湿った、少し懐かしい空気の匂いがして、長く厳しい冬がようやく遠ざかっていく予感に道をゆく誰もがなんだか浮き足立っているように見える。トロントダウンタウン中心地の Roundhouse Park という気持ちの良い広場に、みんなの行きつけのビアバーがあって、わたしたちはおしゃべりをしながらぞろぞろとオフィスを出て歩いて行った。

いつも一緒に働いているチームの人たちは、なぜか皆ボードゲームがめちゃめちゃ好きで、機会があればしょっちゅうマネージャーも交えてみんなでやったりしている。この日もやはり、ボードゲームをリュックサックに詰めて持ち込んでいるメンバーが数名いた。

仕事では言語の壁を以前よりもだいぶ感じなくなってきた気がするけれど、言葉系のボードゲームになるととたんに「外人さん」に逆戻りしてしまう。例えば、この日にやったゲームの一つは言葉の連想ゲームみたいなもので、カードを1人ずつ引いて行って誰かと同じ絵柄が出たらカードに書かれた言葉に関連する言葉を早押しで言わないといけない、みたいなルールだったのだけれど、その言葉とか連想できるものというのがまったくもってちんぷんかんぷんなのである。例えば、トイレ掃除に使うスッポンとか。生活してれば絶対に知っているものだけど、英語で何ていうのか、どんなメーカーがあるのか、まったくわからない。

こういう困ったことがしょっちゅう起こるために、私にはすっかり「愛すべき外国人」キャラが確立されてしまっている。こんなときいつも優しいカナダ人たちが助け舟を出してくれるのだが、特に自分より1年早くからチームにいるJ先輩がこそっと教えてくれる。彼女はナイアガラ出身の優秀なディベロッパーで、ブロンドヘアで黒系のファッションが好きなクールな先輩である。なんでも高校生のときはナイアガラでアイスクリーム屋さんのバイト、大学にいたときはキャンパス近くのスタバでバイト、そして今はオフィスから徒歩数分の、ダウンタウン中心地のマンションに一人暮らしをしているという。こんなかっこよい先輩が近くにいるものだから、私はことあるごとにいろんなことを相談したりと彼女を頼ってしまうのだった。この日もJ先輩は統一感のあるコーデに素敵な黒ネイルと高い位置の軟骨ピアスをばしっと決めていた。

 

 

私がカードを引いて呆然としていると、J先輩は横から「〇〇だよ」とか「〇〇ってこういう意味だよ」とか言ってくれて、しまいには「わたしのカードあげる」みたいな有様である。そういえば日本にいたとき留学生がいるとこんな感じだったなあと遠い目で思い出しながら、わたしはいつもありがたくボドゲを楽しませてもらっている。いつも大変ありがとうございます。

 

またあるときは、みんなでランチを食べにいったときに、注文を聞かれ、

こちらでは注文をとられるときに名前を聞かれるのだけれど、日本人の名前は伝わらないので私がいつものように英語名を名乗ったところ、

チームのメンバーたちは一瞬少し複雑そうな顔をしたあと、「俺はJamesだ」とか「Bobです」とかみんなそれぞれに全然違う適当な名前を言い出したことがあった。

面白かったので大笑いしつつ、優しいなあと胸の内で思ったのだけれど、実際食事が届いたときにはみんなすっかり忘れてしまっていて、「いやJamesはこの卓にはいないですね」みたいな感じだったので状況はカオス的であった。

 

また別のときは、みんなの身長の話になって、周囲の人は足のサイズも身長もフィートを使う人が多いのだけれど、

私がぱっと換算できずとりあえずcmで答えたら、カナダ人はcmはわからないが、数字が一番大きいので私がチームで一番背が高いに違いない、バスケットボールをやっていたらしいしめちゃめちゃ高身長であることに違いない、みたいにいじられた(笑)ちなみに私はごく一般の日本人女性平均身長くらいなので、チームではたぶん一番チビである。

 

そんなこんなですっかり「愛すべき外国人」キャラを確立してしまったのであるが、何が言いたかったというとチームは大変 Inclusive で優しく私は日々幸せですということである。

 

ところで、ビアバーでは大きなスクリーンでプロ野球が中継されていた。トロントにも Toronto Blue Jays というプロ野球球団があって、菊池雄星など日本人の選手も所属している。world baseball classic の時期だったが、トロントはマイアミと時間帯が同じなので、仕事終わりに旦那とわーわー騒ぎながら観戦しており、優勝したときは2人でおんおん泣きつつ、日本列島の人たちと共に心を震わせているのを全身で感じていたのだった。ちょうどタイムリーに日本が優勝した直後だったのであっと思い、興奮冷めやらぬ口調で「というか日本が優勝したんですよ!!!」と熱を帯びた目でチームに話題を振ってみたのだが。

みんなにこにことジンジャエールをちゅーと啜ったりしながら、そうなんだーと悪意のない沈黙で返されてしまった。インターンの学生がかろうじて「Shohei Ohtaniかっこいいですよね」とカバーしてくれたが、PMは明らかにポテトに夢中だった。残念ながら皆あまりworld baseball classic には興味がなかったようである。まあ自国でないのだからそりゃそうだ。

 

 

そんなこんなで、また今年もわたわたと新学期が始まってゆく。日本の桜を見ることができないのを残念に思いつつ、冬が長く厳しいカナダでの春の待ち遠しさもまた良いなあと思う、今日この頃である。

 

 

 

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