Twisted bilayer graphene がアツい

グラフェンは非常にシンプルな構造を持つ二次元系で、
ディラック方程式で記述できる二次元電子がみせる多彩な量子物性の舞台として、様々な研究がされてきた。

層どうしが Van der Waals で結合しているため、ぺりぺりと剥がすことでたった一層にまで分離できることから一層膜での実験も可能なグラフェンであるが、
2018年、このグラフェンの一層膜を二枚、”ちょっとズラして” 重ねることで、超伝導状態が実現するという研究がnature で発表された。

この記事では、この “Twisted bilayer graphene (TBG)” の機構や、関連した研究について、簡単にまとめてみようと思う。

*この記事は、こちらのスライドを元にしています

 

TBGと強相関電子系

グラフェンのハニカム格子の周期構造をほんの少し角度をすらして二枚重ねると、モアレ縞が現れる。
このモアレ縞が綺麗に現れる、傾き角1.16°の “Magic angle” では、抵抗ゼロの超伝導状態が実現する。

Schematics of TBG[1]
超伝導状態の実現[1]
 

1980年代以降、様々なペロブスカイト型金属酸化物において、高温超伝導体が次々と発見された。
これらの超伝導状態の起源には、電子がお互いに強く相互作用し合う状態がある。

TBGの超伝導も、この強い相関を持った電子状態に起源があると考えられている。

モット絶縁体

強相関電子系は、電子同士のクーロン相互作用が大きい系において、電子の占有状態の微小な変化によって、物質の特性が大きく変わる系である。
電子の状態密度の大きいエネルギー準位が集中しているために、フェルミ準位が少し変わることで、絶縁体になったり超伝導状態になったりする。
ここでの絶縁状態は、通常のバンド絶縁体とは異なり、”電子が動けない状態”、モット絶縁状態である。

TBGでキャリアチューンを行ってフェルミ準位を変えていくと、このモット絶縁状態が観測される。

TBGにおけるモット絶縁相・金属相間の相転移[1]
TBGはスピンの対称性とバレー対称性のために4回回転対称性を持っているので、占有状態が ±1/4, 1/2, 3/4で転移点があることになる。

Continuum model による moire band の計算

TBGのバンド計算に、単純にtight-binding model を適用しようとすると、微小角で重ね合わせたユニットセルが大きくなるために、計算量が膨大になってしまう。
TBGの電子状態を説明するモデルは様々な提唱があるが、代表的なバンド計算の一つでは、tight-binding model を近似を用いて簡素化した Continuum model が用いられている。

この計算では、角層の電子それぞれのハミルトニアンに、トンネリング項を追加し、トンネリング項は主要な3つの項しか考慮しないことにしてしまう。

こうして計算されたバンド図では、角度が”Magic angle” に近づいたときにフラットバンドと呼ばれる状態密度の高いエネルギー準位が現れ、強相関電子系の出現を裏付ける結果となっている。

 

強磁性・カイラルエッジモードの発現

最新の研究では、コンダクションバンドの占有が3/4のときに、最大10.4kΩの異常ホール効果が観測されていて、
TBGにおける磁性の存在が示唆されている。

磁性の起源は明らかになっていないが、電子の相互作用によってスピンとバレーが適切な方向を向くということが時間反転対称性を破るということに起因しているのではないかと言われている。

さらに、同じくコンダクションバンドが3/4の占有状態の場合で、量子異常ホール状態が報告されている。

まとめ

様々な大きな発見の舞台となってきたグラフェンの可能性は、まだまだ計り知れない。グラフェンのシンプルな構造は、他のあらゆる系に繋がる現象のモデルとなり得て、様々な新規の現象の解明に通じると期待している。

 

参考文献

[1] Yuan Cao, et al., “Unconventional superconductivity in magic-angle graphene superlattices” Nature 556, 43-50 (2018).
[2] Bistritzer,R. & MacDonald,A.H. Moirébandsintwisteddouble-layergraphene. Proc. Natl Acad. Sci. USA 108, 12233–12237 (2011).
[3] Fengcheng Wu, et al., “Theory of Phonon-Mediated Superconductivity in Twisted Bilayer Graphene” Phys. Rev. Lett. 121, 257001 (2018).
[4] D. J.Van Hariingen, Rev. Mod. Phys 67, 2 (1995).
[5] Cheng-Cheng Liu, et al., “Chiral Spin Density Wave and d + id Superconductivity in the Magic-Angle-Twisted Bilayer Graphene” Phys. Rev. Lett. 121, 217001 (2018).
[6] 物性研究 (2002), 79(3): 502-530
[7] Tong Chern, “d + id and d wave topological superconductors and new mechanisms for bulk boundary correspondence” Rev. Mod. Phys AIP Advances 6, 085211 (2016).
[8] Rahul Nandkishore, et al., “Chiral superconductivity from repulsive interactions in doped graphene” Nature 8, 158-163 (2012).
[9] Yuan Cao, et al., “Strange metal in magic-angle graphene with near Planckian dissipation” arXiv:1901.03710v1.
[10] A. L. Sharpe, et al., “Emergent ferromagnetism near three quarters filling in twisted bilayer graphene”, arxiv:1901.03520(2019)
[11] M. Serlin, et al., “Intrinsic quantum anomalous Hall effect in a moire heterostructure”, arxiv:1907.00261(2019)

 

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